国産ウイスキーにおけるモノとコト

今はどうかわかりませんが、日本のウイスキー全盛時代(昭和の後半:当時私はウイスキーメーカーでマーケティングに従事していました)、成人人口一人当たりのウイスキーの消費量は多分世界一だったのではないかと思います。
皆さんもよくご存じのサントリー社のオールドは最盛期は年間1,200万ケース、本数にすると1億4千4百万本も飲まれていたのですから。
日本には元々、日本酒があって、焼酎がありながらなぞそれほどまでにウイスキーが飲まれるようになったのでしょう。

その理由は、当時のウイスキーユーザーがウイスキーというモノ消費ではなくウイスキーがつくり出すコト消費をしていたからに他なりません。
日本においては昭和の初めごろからウイスキーが一般的に飲まれ始められましたが、当時は西洋文化へのあこがれが心の底にあったことは間違いありません。
そしてウイスキーを飲むことの「かっこよさ」が社会に広がっていきました。
それともう一つ、日本にそれまであった蒸留酒である焼酎の生産者を保護する目的から行政が酒税を高く設定することでウイスキーが同じ蒸留酒であるより高価になりましたが、そのことが「かっこよさ」に拍車をかけることになります。
そして戦後しばらくしてからの高度成長期にウイスキーは大きく伸びていきました。

ウイスキーを最初に口にして「これはおいしい」と思った方は何人いらっしゃるのでしょう。
少なくとも私においては、大学生の時にウイスキーを始めて口にして「おいしくない」と思いました。
しかしながら、雰囲気のかっこよさなどが理由でパブ、バー、スナックで飲む機会が多く、我慢して飲んでいるうちに「おいしい」と感じるようになってきました。
ウイスキーのような癖のあるものは慣れるにしたがっておいしさを感じるようになります。
そして下宿で飲むのは低価格の二級ウイスキー、外で飲むのは一級、ちょっと気張って特級ウイスキー。
私を含めこのようなウイスキーユーザーが日本のウイスキー市場を支えていたのです。
まさにウイスキーを媒介にしたコトの消費だったのです。

ところが1989年(平成元年)を境にウイスキー市場は急速に縮小していきました。
その原因に関して、若者がアルコール度数の強い酒を避けるようになったとか色々言われてきていますが、本当のところはウイスキーの級別の廃止です。
時の英国首相サッチャー女史が、「スコッチは日本の酒税法では特級になり税金が高くその結果価格も高くなるため売れない。一方日本のウイスキーはちょっとした製法の違いだけで品質は大きく変わらないのに一級、二級というカテゴリーがあり酒税も安く、価格も安いウイスキーがある、それは不公平だ」というクレームがあり日本政府として譲歩し、特級の減税、二級の増税による酒税の一本化を目的とした「級別廃止」したのです。

私は「業界の意見を聞きたい」と言われ国税庁で担当課長からヒヤリングされました。
その時私は「ウイスキーは消費者にとっては、それを飲むことが一種のステータス、社会的地位を表すツールの面があるので特級の減税による価格低下、入門酒としての二級の増税による価格上昇につながる級別廃止はウイスキーの市場の縮小、ひいては酒税全体の減少につながります」と意見を述べたのですが、担当課長は「ウイスキー市場で特級の販売金額シェアは圧倒的に高く、特級の価格が下がることで販売数量は伸び市場の合計金額は大きな影響を受けないと思うのですが」ということでした。

通常は「価格が下がれば商品が売れるようになる」と考えがちですが、コト消費の目的て購入される商品は「価格が下がることで商品が売れなくなる」という一つの事例です。

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