投稿者「ogawa109」のアーカイブ

食品ヒット商品をつくる基本は価値の創造

これまで多くの企業の方から食品のマーケティングに関する相談を受けてきていますが、その中で一番多くあるのが新製品・新商品開発に関しての相談です。

「ヒット商品を作りたい」「ブランドを育てたい」競合他社のヒット商品に対抗する商品を作りたい」「上層部から新製品・新商品開発の指示が出た」「競合他社のヒット商品に対抗する商品を作りたい」「売り上げが伸びないので新商品を導入したい」等々動機は様々ですが根底にあるのは「売れる商品を作りたい」ということです。
「売れる商品」とは「お客様に買ってもらえる商品」です。 お客様が買いたいと思う商品とはどのような商品なのでしょうか?
それはお客様にとって魅力的な商品、すなわち価値のある商品です。 お客様はその価値に対しての対価を払ってくれることでビジネスは成り立っています。
消費者が求める価値とは必ずしも高品質、高価格ということではありません。 その商品を手にして口にすることで、何か得をした、何か満足した、何か納得したと思ってもらえる要素、それが価値(=ベネフィット)です。
・価格が安いことに価値を置く消費者、価格が高いことに価値を置く消費者
・どこでも買えることに価値を置く消費者、どこでも買えないことに価値を置く消費者
・機能性に価値を置く消費者 ・無添加に価値を置く消費者
・国産原料に価値を置く消費者
等々、挙げればきりがないほど消費者が食品に見出す価値は多様です。

このような状況で、自社の新商品にどのような価値を持たせるかをはっきりさせて、競合商品の価値を上回る価値を作り出す「価値の創造」が大切になります。
ヒット新製品・新商品開発には「価値の創造」の有無が大きく影響しますが、簡単にできるものではなく時間も労力も費やす一番大変なプロセスで多くの場合新製品開発の段階で行うのが理想です。
「価値の創造」へのアプローチは、自社の経営資源(資金力、設備力、技術力、原材料調達力、企業ブランド力、外部企業活用力)から生み出せる価値の洗い出しと消費者の意識から考えられる価値との最適な組み合わせの発見です。

最終的にどのような意識を持っている消費者(=ターゲット)に自社で可能などのような価値を提供するのかをあきらかします。
マーケティングでよく言われてきている商品コンセプトです。
しっかりした商品コンセプトが出来れば、その後のプロセスである新製品・新商品開発、情報発信、販売促進で、その商品の価値を如何に解りやすく、適切に消費者に伝えていくかを考えることはそれほど難しいことになりません。

国産ウイスキーにおけるモノとコト

今はどうかわかりませんが、日本のウイスキー全盛時代(昭和の後半:当時私はウイスキーメーカーでマーケティングに従事していました)、成人人口一人当たりのウイスキーの消費量は多分世界一だったのではないかと思います。
皆さんもよくご存じのサントリー社のオールドは最盛期は年間1,200万ケース、本数にすると1億4千4百万本も飲まれていたのですから。
日本には元々、日本酒があって、焼酎がありながらなぞそれほどまでにウイスキーが飲まれるようになったのでしょう。

その理由は、当時のウイスキーユーザーがウイスキーというモノ消費ではなくウイスキーがつくり出すコト消費をしていたからに他なりません。
日本においては昭和の初めごろからウイスキーが一般的に飲まれ始められましたが、当時は西洋文化へのあこがれが心の底にあったことは間違いありません。
そしてウイスキーを飲むことの「かっこよさ」が社会に広がっていきました。
それともう一つ、日本にそれまであった蒸留酒である焼酎の生産者を保護する目的から行政が酒税を高く設定することでウイスキーが同じ蒸留酒であるより高価になりましたが、そのことが「かっこよさ」に拍車をかけることになります。
そして戦後しばらくしてからの高度成長期にウイスキーは大きく伸びていきました。

ウイスキーを最初に口にして「これはおいしい」と思った方は何人いらっしゃるのでしょう。
少なくとも私においては、大学生の時にウイスキーを始めて口にして「おいしくない」と思いました。
しかしながら、雰囲気のかっこよさなどが理由でパブ、バー、スナックで飲む機会が多く、我慢して飲んでいるうちに「おいしい」と感じるようになってきました。
ウイスキーのような癖のあるものは慣れるにしたがっておいしさを感じるようになります。
そして下宿で飲むのは低価格の二級ウイスキー、外で飲むのは一級、ちょっと気張って特級ウイスキー。
私を含めこのようなウイスキーユーザーが日本のウイスキー市場を支えていたのです。
まさにウイスキーを媒介にしたコトの消費だったのです。

ところが1989年(平成元年)を境にウイスキー市場は急速に縮小していきました。
その原因に関して、若者がアルコール度数の強い酒を避けるようになったとか色々言われてきていますが、本当のところはウイスキーの級別の廃止です。
時の英国首相サッチャー女史が、「スコッチは日本の酒税法では特級になり税金が高くその結果価格も高くなるため売れない。一方日本のウイスキーはちょっとした製法の違いだけで品質は大きく変わらないのに一級、二級というカテゴリーがあり酒税も安く、価格も安いウイスキーがある、それは不公平だ」というクレームがあり日本政府として譲歩し、特級の減税、二級の増税による酒税の一本化を目的とした「級別廃止」したのです。

私は「業界の意見を聞きたい」と言われ国税庁で担当課長からヒヤリングされました。
その時私は「ウイスキーは消費者にとっては、それを飲むことが一種のステータス、社会的地位を表すツールの面があるので特級の減税による価格低下、入門酒としての二級の増税による価格上昇につながる級別廃止はウイスキーの市場の縮小、ひいては酒税全体の減少につながります」と意見を述べたのですが、担当課長は「ウイスキー市場で特級の販売金額シェアは圧倒的に高く、特級の価格が下がることで販売数量は伸び市場の合計金額は大きな影響を受けないと思うのですが」ということでした。

通常は「価格が下がれば商品が売れるようになる」と考えがちですが、コト消費の目的て購入される商品は「価格が下がることで商品が売れなくなる」という一つの事例です。

マーケティングツールとしてのネット活用

ターゲット、提供価値などいわゆる商品コンセプトも確定し、ネーミング、パッケージデザイン、キャッチコピーも決まっていよいよ新発売。

事前の消費者の受容性調査もやっていても所詮その段階では仮説です。
昔はその仮説を検証するため、新商品失敗のリスクを避けるために「エリアマーケティング」という手法をとっていました。
地域を限定して何か月かの一定期間試験的に販売し、その結果から商品、広告、販促策を見直して全国発売に備えるというものです。
最近では「地域の特性に応じたマーケティングを行う」ことを意味する場合もあるようですが。

しかし、インターネットが発達した今は、自社ネットショップ限定販売でが昔のエリアマーケティングに代替できます。
価値があると思った製品が本当に受け入れられるのか、どのようにその価値を伝えたらいいのか等々、短期間でしかも低コストで確認できますので、大手企業だけでなく中堅、中小食品企業でも利用価値があると思います。
特にフェースブックの場合は、きめ細かいターゲット設定が出来ますので、商品コンセプトを短期間で変更しながら仮説の検証、商品コンセプトの改善が可能になります。

最近ではこの手法で市場導入を進める企業が増えてきているようですが、まだまだ少ないのも事実ではないでしょうか。
その一番大きな理由は、大企業においてはマーケティング部門は自社ネットショップに無関心でWEB担当部門に任せきり、WEB担当部門はマーケティング部門で作成した商品コンセプト、キャッチコピーをそのまま受け入れてページ作成するという点にあります。
一方、中堅、中小企業においては人手不足から、当初に制作会社が作成したままのネットショップで運営しているという点にあります。

ネットショップは単に商品を売るためだけに存在しているのではありません。
仮説の検証だけでなく、SNSなどで話題になることで口コミ(ネットコミ)で新商品の認知が上がってきますし購入促進、顧客創造にもなります。
また、次のステップであるリアル店舗の取り扱い増加につながります。

マーケッターの皆さん、自社ネットショップをマーケティングツールとして活用されてはいかがでしょう。

 

国産ウイスキー黎明期の新製品開発

スコットランドでスコッチウイスキーづくりを学んできた竹鶴正孝氏(後にニッカウウィスキー創業)は1923年に壽屋(現サントリー)に技術者として入社し京都にある山崎蒸留所にウイスキー製造を任されることになります。

そして6年後の1929年に初の国産ウイスキーとして「サントリーウイスキー」(ラベルが白かったことから「白札」と呼ばれその後「サントリーホワイト」)が発売となります。
竹鶴正孝氏の目指したウイスキーはスコッチを手本にした本格ウイスキー。
ウイスキーに憧れ単身スコットランドに渡ってウイスキーづくりを学んだのですから、当然ウイスキーの味への慣れがありウイスキーの味わいに心酔していたはずです。
国産第一号のウイスキーに対しても100%スコッチの品質とは言えないまでも竹鶴氏にとっては満足のいく品質だったと思います。

しかし竹鶴氏の思いは消費者に通じず、売れ行きは芳しくありませんでした。
当時日本で飲まれていた酒と言えば甘みのある「日本酒」。
その味覚に慣れた消費者にとっては甘味が無く、しかも独特のスモーキーフレーバーのあるウイスキーの味わいに大きな抵抗があったことは容易に想像されるところで、「本格ウイスキー」という訴求だけでは消費者の心を動かすことが難しかったのでしょう。

竹鶴氏はウイスキーの製造から離れ、壽屋の社長である鳥井信治郎氏氏は日本人のための日本のウイスキーづくり、言い換えれば日本人にとって飲みやすいウイスキーの製造を進めることになります。

具体的にはウイスキーに甘みをつけ、スモーキーフレーバーを弱くすることでウイスキーという新しい味わいへの抵抗感を下げ「飲みやすい」ウイスキーをつくることだったのだと思います。

人間は甘みを本能的においしさと感じるとと言われていますが、わずかでも甘みが加わることで飲みやすさ(=おいしさ)を感じ、それに慣れるにしたがって癖のある味わいを求めるようになることがあります。
日本でコーヒーが広まり始めた50年ほど前、砂糖を入れて飲むことが一般的でしたが、徐々にブラックで飲むようになってきました。
ワインも当初は赤玉ポートワインに代表される甘いワインが主流で、今多く飲まれているワインは酸っぱくて苦いと敬遠されたものです。
このように甘みは、飲みやすさ、とっつきやすさを助長しますので、甘みを持たせるということはこれまでにない味わいの商品の初期導入時に効果のある品質設計になります。

誤解があるといけませんので少し詳しく説明します。

蒸留した段階のウイスキーには糖分は一切含まれていませんが、樽に貯蔵している段階で甘みを増やすことが出来ます。
例えばスペインのワインにシェリー酒がありますが、甘口シェリー酒の空き樽でウイスキーを熟成させると樽にしみこんでいたシェリーが溶け出してウイスキーが甘くなります。
どの程度シェリーがしみ込んだ樽を使うかによって甘みが違ってきます。
スコッチウイスキーにもシェリー樽熟成のものがありますが、長いスコッチウイスキーの歴史の中で消費者はこれまでの味わいに慣れがありますので甘みはほとんど感じない味わいになっています。

竹鶴氏も鳥井氏も「生活の洋風化によってウイスキーが伸びる」と思っていたことは間違いありません。
それを広めるため竹鶴氏は「スコッチウイスキーと同じ本格ウイスキー」、鳥井氏は「日本人にあった飲みやすいウイスキー」 という製品コンセプトで市場をつくってきました。
国産ウイスキーの黎明期には、こだわりで顧客を獲得するか(プロダクトアウト)、消費者の嗜好に合わせて顧客を獲得するか(マーケットイン)の違いがありました。
プロダクトアウトの製品も魅力があるし、マーケットインの製品も魅力があります。

皆さんがもし当事者だとしたらどちらを選択するでしょうか?

近年ではニッカウヰスキーでもスモーキーフレーバーの無いウイスキーの製品化を行っていますし、サントリー社の製品にも糖分は含まれていません。

今や、世界のウイスキー品評会ではニッカウヰスキー、サントリー製品とも常に上位に位置し、ウイスキーの原点であるスコッチウイスキーに勝るとも劣らない確固たる地位を築くまでになっています。
日本のウイスキーメーカーほど品質向上のための研究開発に熱心なところはありません。

マーケティングの目的は「顧客づくり」

9月の人事異動があってか「マーケティング部門に異動になったのですが、何をしたらいいのかわかりません」という内容の問い合わせがここ何件かありました。

新製品開発、新製品・新商品開発に始まり、情報発信のための広告宣伝、ネット活用、販売促進などなどマーケティングには多くのプロセスがありますが、「全てのプロセスに共通した目的は『顧客をつくること』で、その目的のために自分は何をしたらいいのか考えることが大切です」と答えています。

顧客とは「自社の商品を気にかけてくれるお客様」、言い換えれば「自社商品のファン」、メーカー視点ちょっと不遜な言い方ですがよく使う「リピータ」です。

以前お手伝いしたある農産物加工メーカーで実際に会った話です。
そのメーカーはいくつかのショッピングモールで商品を販売しているのですが、新しく使うことになったショッピングモールから来た注文にお断りのメールを出していました。
その理由は単に「受注処理がまだよくわからない」というもので「大した売上げではないから」と言うのです。
どうして大した売上げではないのでしょう。
そのお客様は二度とそのメーカーの商品を買うことは無いでしょうし、逆に注文が出来てその商品が気に入れば毎月購入してくれるかもしれないのです。
仮に5,000円の商品であれば、5,000円の売り上げを失ったのではなく年間60,000円の売り上げを失っているのです。
ネットショップだけでなく実店舗においても同じです。
特に食品においては購入頻度が圧倒的に高いのですから「顧客をつくる」ということが業績向上にはとても大事なことになります。

お客様に価値のある製品をつくり、その価値をさらに高める商品化を行い、その価値をお客様に伝え、身近な売り場に陳列し、気に入ってもらって顧客になってもらう、利益は自ずとついてくる、これがマーケティング、特に食品マーケティングの基本的な考え方だと思います。

補足で一言
自社のファンになってもらうためにはマーケティング部門だけでなく、会社全体のお客様に接する態度が大事になってきます。
経営者、社員の皆さんの態度、対応の良さに好意をもつことがひいては商品への好意を醸成しファン(顧客)になってくれることでしょう。
マーケティングは全社活動です。

低価格競争から価値競争へ

大手百貨店グループのバイヤー社内研修に呼ばれ新製品・新商品開発の講演をしてきました。

メーカーからの商品案内、商品発掘に対応するだけでなく、素材、製法といったメーカーの持つスキル、ノウハウにまで立ち入って、メーカーと協同で価値の高い商品の開発を行わなければならないという会社の方針があるからでした。
このグループにかかわらず、近年、スーパー、コンビニなど大手小売ではメーカーと一緒になった新製品・新商品開発が盛んに行われています。

同じような新製品・新商品開発にPB(プライベートブランド)がありますが、これはどちらかというと多くの場合、低価格化を実現する施策であり、メーカーの既存品のパッケージなどを変更するなどの新製品・新商品開発が主でした。
しかし、売り上げは確保できても利益が伸びないという低価格化競争に限界が来たため、食品メーカーだけでなく大手小売りも含め、価格の競争から価値の競争にシフトしてきています。

ご覧になられた方も多いと思いますが、先週水曜日の日経MJに「2014年上期ヒット商品番付」が発表されていました。
そこでは、増税後も価値の高い商品が好調と言う意味の「勝ち組消費」は東の大関でした。

この現象は食品にも見られておりまだまだ市場規模は大きくはありませんが、これから伸びていくことは間違いなく、食品市場全体の伸びが期待できない状況では価値の高い商品の伸びる分だけ低価格対応してきた既存品の売り上は低下することになります。

だからと言って自社のすべての既存商品の価値を高めなくてはいけないということではありません。
多くの企業はまだまだ売上げの主体が既存商品に依存しているはずですから。
しかし、「気が付いたら既存品の売上げが低下していた」とならないように、新カテゴリーや高級品の位置づけで、早目に価値のある商品の開発に取り組む必要があるのではないかと思います。

マーケティングに必要な二つのコストパフォーマンス

コストパフォーマンス良いう言葉がよく使われます。
日本語にすると費用対効果。

マーケティングにおいて、特に大切な二つのコストパフォーマンスがあります。

一つはマーケティング投資に対しての効果。
ある費用をかけてその効果(ブランド力向上、売上げ、利益など)が大きくなるほど「コストパフォーマンスが高い」と言います。
企業は費用を使うにあたって、それがもたらす効果を予測して投資をします。

例えば、インターネット広告などない、テレビ広告全盛の時代、全国規模で効果が出る宣伝広告の費用は20億円、30億円と言われていました。
それでも「やらないよりましだろう」と言うことで数億円の広告を打つ企業が多くありました。
広告宣伝は効果がはっきりしませんので致し方ないとも言えますが、どれほどコストパフォーマンスを考えたのかという言う点で問題のある投資です。

マーケティングでもう一つ大事なコストパフォーマンスがあります。

それは、お客様にとってのコストパフォーマンスで、言い換えれば「自社が如何に価値の高い商品を安く提供できるか」ということです。

お客様は我儘で、何かいいこと、自分に得なことを持つ商品に興味を持ち、購入します。
あまたある競合品と商品の差別化されていない商品の売り上げを高めるために、特売と称して定価を下げる販売施策も、お客様の期待する「コストパフォーマンスの高さ」を訴求し購入を喚起させようとしているわけです。
特売の問題点は、自社の特売が終わって、競合商品が特売を始めるとそっちにブランドスイッチしてしまうか、次回の特売まで買い置きで凌ぐとか、結局低利益の商品になってしまうことです。

最近では「ちょっとぐらい高くても質のいいもの」を求めるお客様が増えていると言われています。
競合商品と同価格か、ちょっと高めの価格設定で、質の高い、価値のあるコストパフォーマンスの高い商品(お客様が価格を上回る「何かいいもの」「何か得するもの」)をつくり提供していくことが大事になってきているのではないでしょうか。

なぜ、ノンアルコールビールは高くても売れるのか

これから暑さが増してくるにつれつれビールがおいしくなってきますね。
ただ時と場所でアルコールを飲んではいけないことがあって、最近ではノンアルコールビールに人気が出ています。

皆さんはノンアルコールビールが高いことはご存知でしたか?
ノンアルコールビール、いわゆるビールテイスト炭酸飲料の食品衛生法の表示は「品名:炭酸飲料」です。
一般的な炭酸飲料と比べて一缶あたり20円ぐらい高くなっています。
ビールと違って酒税はありませんし、一部のブランドでは原材料も麦芽を一切使わず、ホップ、香料、調味料、カラメル色素でビールテーストをつくり出していて一般的な炭酸飲料とはほとんど原材料、製造コストは変わらないにもかかわらず。

これはお客様が商品に価値を認めているから「価格が高い」という不満が無いのです。
その価値とは「アルコールが含まれていない酔わないビール」。
「ビールを飲みたいけど酔うのはだめ」という時と場合において、ビールに対する不満が「酔う」ことであり、その不満を解消したところに価値をおいてくれているのではないでしょうか。
「アルコールの無いビール」と「ビールの味わいの炭酸飲料」、成人でビールを飲む消費者の多くは前者に価値を置き、魅力を感じるのではないでしょうか?

日本の大手ビールメーカーはそれぞれグループ内に飲料会社があるにもかかわらず、製造はビール会社です。
また、コンビニ、スーパーなどでは酒類の陳列棚、またはその隣に並べられています。
「アルコールの無いビール」をうまく演出していますね。

「おいしさ」のつくり方、伝え方

2009年に新橋に「俺のイタリアン」を出店して、現在、イタリアンの他にフレンチ、割烹、果てはおでん、蕎麦まで都心部中心に全8業種24店舗の店があり、一部テーブル席はあるものの基本は立ち食いスタイルです。
にもかかわらず、各店とも行列が絶えません。

ビジネスコンセプトはお客様の回転数を高めて低価格で料理を提供するというもので、これまででも同じビジネスモデルとして以前から「牛丼の吉野家」などがありました。

消費者が飲食店に求める価値は大きくは以下の三つではないかと思います。
1. おいしさ
2. コストパフォーマンス
3. 食事の場の雰囲気、サービス

この三つの価値を同時に提供することは非常に難しいことです。
吉野家は1. おいしさ 2. コストパフォーマンスに、時間節約の価値を加え、3. 食事の場の雰囲気、サービスを除くことで「うまい、安い、早い」という価値提供で差別化を図り成功してきました。
今回の「俺の●●」も1. おいしさ 2. コストパフォーマンスで、どちらもコア・コンセプトは「おいしさ」です。

二社の違いにお気づきでしょうか?
「俺の●●」は「おいしさ」という言葉を使わずに高級食材をふんだんに使って、それを調理する料理人に業界の一流と称される人を集めていると言う情報を発信しています。
つまり「おいしさ」と言う言葉を使わずに、そのエビデンス(=根拠)を訴求することでお客様に「おいしさ」を伝えています。
インターネットが発達した情報社会の今、単に「おいしい」と言うだけでなく、「おいしさ」の根拠の情報の方が口コミ、ネットコミになりやすく情報が拡散します。

今回は飲食業の話ですが、食品の新製品・新商品開発においても「おいしさ」をコアコンセプトにして、どのような素材で、どのようにつくってその「おいしさ」を生み出したのかと言うエビデンスをターゲットにきちんと伝えていくことが大事なのではないかと思います。

「味覚」は電気信号、「おいしさ」は感情

安倍晋三首相とオバマ米大統領が食卓外交を行った東京・銀座のすし店「すきやばし次郎」がマスコミ、ネットで話題になっています。
「おまかせ」コースは3万円、オバマ大統領は「今日食べた寿司が人生で一番おいしい」と話したことも紹介されています。

消費者が食品に求める価値で一番大きなものは「おいしさ」ですが、非常に主観的なもので万人が認める「おいしさ」がないために食品業界に携わる皆さんにとってはいつも悩まされるのではないでしょうか。

人が食物を口にしてその味わいを感じる(=味覚)のは、味蕾と言う受容器が食物に含まれる化学成分を電気信号に変えて脳に届けるからです。
脳には様々な情報が蓄積されていて、それらの情報をベースに受け取った電気情報を判定します。
昨年問題となった食品偽称を例にとると、食品から「車エビ」という情報を視覚で取得し「車エビはおいしい」という情報が融合して、仮に「バナエイエビ」を口にしてもその食品は「おいしい」と判定してしまうのです。

つまり「おいしい」「おいしくない」という判定は、人間のそれまでの経験による記憶で行われます。
「味覚」は電気信号に過ぎず、「おいしさ」は感情なのです。

もう一つ、「おいしさ」を感じる人間の心理に「認知的不協和」と言うものがあります。
人が矛盾する認知を同時に抱えた時に感じる不快感のことで、人はその不快感をなくすために矛盾を無くそうとします。

3万円という寿司を口にした時、あまりおいしいと思わなかったとしたらそこに矛盾が生じます。
そしてその矛盾を解消しようとした時、価格は客観的事実なので主観的な「おいしさ」で解消しようとします。
「ああ、これが3万円のおいしさなんだ」と。

消費者においしいと思ってもらう食品をつくるにはこのようなお客様の心を動かす必要があります。
前提として「味わいにエビデンスがある、高品質な製品があってこそ」ということは言うまでもないことですが。