カテゴリー別アーカイブ: 食品新商品開発コラム

飲食シーン、利用シーンをターゲットにする

ターゲット設定というと多くの方は「誰に」と考えがちです。
デモグラフィック(人口統計分布)とサイコロジック(心理的変数)で消費者を分類することも大切ですが、飲食シーン、利用シーンをターゲットにすることも必要です。

飲食シーンでは
一人で食べるのかみんなで食べるのか
ごはんのおかずのおかずで食べるのか、酒のつまみで食べるのか
朝に食べるのか、昼に食べるのか、夜に食べるのかなど
飲食シーンの違いで商品サイズ、味わい、キャッチコピーが違ってきます。

また利用シーンでは
プレゼントに利用するのか
観光みやげにするのか
ノベルティに使うのかなど
利用シーンの違いでやはり製品設計、商品設計が変わってきます。

いくつか事例を紹介します。

カルビーの「フルーツグラノーラ」
1991年発売と言いますから商品としてはロングセラーですが一時伸び悩んでいました。
カルビー社は、1911年ごろに朝食を別々にとる家族が増えてきて簡便に済ませたいというニースがあることに気づき、朝食市場にターゲットを絞ったのです。
その結果40億円ほどの売り上げが3年後の2014年には140億円を超えるまでになっています。

アサヒ飲料の「ワンダ モーニングショット」
それまでにもコーヒー飲料を出していましたが、午前中に缶コーヒーを飲用するボリュームが全体の約4割以上を占めることが調査結果で解り、その市場でトップシェアを取ることを目標に2002年に「朝専用缶コーヒー」を発売します。
研究所や新製品・新商品開発部署では中身の差別化を図ったと思いますが機能的訴求はほとんどなく「朝専用」という訴求と広告宣伝で発売年には400万ケースを販売し、今では他のWANDAブランドも含め4,000万ケースに達しています。
「朝専用」だけでこれだけヒットすることに疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、機能的に差別化がくて商品の選択に迷う場合にシーンを限定されることで「無駄な悩みを避け軽い気持ちで選択する」という消費者心理によるものと私は思います。

他にもまだいろいろなシーンでニーズは存在するのではないでしょうか?
外国人観光客の増加により新しいシーンも出来てきています。
このように飲食シーン、利用シーンを絞り込んで新製品・新商品開発、マーケティングを進めることも必要です。

新製品・新商品開発における市場のセグメンテーション

セグメンテーションとは、共通する特質を基準に不特定多数の人々を分類する 市場細分化のことことです。
その結果出来たいくつからのグループの中かから、自社の強み、新しいアイデアを発揮出来るグループを選択しターゲットとします。
万人に自社商品を買ってもらいたいという気持ちは誰でも持ちますが、商品が他の競合商品との差別化が出来ませんので競争関係が激しい今の食品業界では効率的ではありません。

セグメンテーションはいくつかありますが、マーケティングでよく使われるのがデモグラフィック(人口統計分布)とサイコグラフィック(心理的変数)の二つです。

デモグラフィックでは年齢や性別、家族構成や職表、社会的な階層がその変数になります。
どんなに魅力的は商品をつくり出してもその存在を知ってもらわなくては売れることはありません。
この分類は昔から宣伝広告効果の最大化を目的としてよく使われてきています。
例えば、深夜のニース番組は中年サラリーマンの視聴率が高く、バラエテティー番組は若者の視聴率が高かったりしますので年代でセグメンテーションしてターゲットを設定します。。
このように宣伝広告に効果のあるセグメンテーションでも新製品・新商品開発におけるセグメンテーションにはあまり向いていません。

最近ハ新製品・新商品開発で必要なセグメンテーションはサイコグラフィックと言われ、価値観、嗜好性、ライフスタイル、性格などが変数になります。
価値観が多様化している今の時代は年代で分類することは難しいと言わざるを得ません。
消費者志向といいますが、常に消費者の気持ちを考え、消費者心理を理解することが欠かせません。

私は新製品・新商品開発をするにあたってもう一つのセグメンテーションを採用します。
それはシーン(場面)での分類です。
新製品・新商品開発のお手伝いをしていると、完成した製品を開発会議や経営会議などで試食、試飲する場面に出会います。
小さなカップを使った試飲や少量を口にするだけの試食で「もっと味わいはしっかりさせた方がいい」「味にインパクトが欲しい」という意見が出て担当者は品質設計をやり直すことがあります。

ポカリスエットの開発にあたって話ですが、二つのタイプの試作品もって研究所の何人かで山登りをして汗をかいたところで試作品を飲み比べました。
その時全員が薄い味わいの試作品の方を「ごくごく飲めておいしい」と評価しました。
それを社内で提案したところ「まずい」「これじゃ売れない」という意見が圧倒的だったのですが、社長の「汗をかいた後に飲めば、きっと理解してもらえるはず」発言でポカリスエットの味が決まったという有名な話があります。
飲料だけではなく、例えば干物、お酒のつまみにする場合とごはんのおかずにする場合とでは塩味の強弱などの味付けを変えた方が売れるのではないでしょうか。

「どんな人に飲んでもらうか」という人のターゲット設定に加えて、「どんな場面で飲み、食べるのか」というシーンのターゲット設定が必要な場合が多くあると思います。

ヒット商品をつくる三つのベネフィット

ベネフィットとは、消費者が商品やサービスを購入使用することによって得られる利益、効用、平たく言えば「得した」「嬉しい」と思う気持ちを持つ要素のことです。
私も含め人間は良くも悪くも貪欲ですから、少しでも自分にとって得するものを求めるのは必然であり、買ってもらえる商品、利用してもらえるサービスにはベネフィットは欠かせません。

ベネフィットを以下の三つ「機能的ベネフィット」「情緒的ベネフィット」「自己表現ベネフィット」に分類すると解りやすくなります。
食品でベネフィットにつながる主な要素を考えてみましょう。
【機能的ベネフィット】
おいしい、安い、健康にいい、簡単につくれる など
【情緒的ベネフィット】
新しい、安心できる、高級感がある、希少性がある、話題性がある など
【自己表現ベネフィット】
こだわりを示せる、自慢できる、自分のライフスタイルを誇示できる など

いかがでしょう。
皆さんも消費者としてこのようなベネフィットから商品の購入をしているのではありませんか?
にもかかわらず、食品メーカーの多くは機能性ベネフィットの訴求はされてますが、情緒的ベネフィット、自己表現ベネフィットの訴求までしているところはまだまだ少ないようです。

私が子供のころに初めてコカ・コーラを飲んだ時「なんてまずいのだろう」と思いました。
三ツ矢サイダー、バヤリースオレンジの方がよっぽどおいしく感じていました。
私の記憶の中にはコカ・コーラの機能性ベネフィットの訴求はなく、あるのは「スカッとさわやか、コカ・コーラ」のキャッチコピーでこれは情緒的ベネフィットの訴求です。
同じような情緒的ベネフィットの訴求で成功した事例としてはビールのスーパードライがあります。
機能性ベネフィットの訴求もしながらテレビコマーシャルではスポーツシーンなど活動的なライフスタイルの訴求で成功を収めています。
自己表現ベネフィットの訴求としては、ネッスル社が1980年代に「違いがわかる男の、ゴールドブレンド」のキャッチコピーと共に各界著名人を起用してブランドイメージの高級感を醸成させています。

三つのベネフィットの違いを理解してもらうために事例を挙げてみましtが、どれも一つのベネフィットだけでなく機能性ベネフィット、情緒的ベネフィット、自己表現ベネフィット、三つのベネフィットを強弱をつけてうまく組み合わせていることは言うまでもありません。

中堅、中小食品メーカーの皆さんにとっては「大量宣伝が出来る大手企業ならではのこと自分たちには関係ない」と思われるかもしれませんがネット社会の今の時代、決して無理な話ではありません。
前回のブログでも書きましたが、差別化された特徴のある商品を開発し、最初は機能性ベネフィットだけの訴求でもそれがネットで話題となり、マスコミで取り上げあられ、さらにネットで話題になることで「話題の商品を食べてみたい」という情緒的ベネフィットを持つ消費者が増えヒット商品となり、いずれブランド商品になる、実際に規模の大小はあるもののそのような商品が多くみられるようになってきています。

ターゲット設定から始める新製品・新商品開発

前回のブログで「ベネフィット」について書きました。
メーカーがどんなに価値ある商品をつくってもそれをベネフィットとして享受する人がいる反面、全くベネフィットとしない消費者も存在します。
ある商品においてすべての消費者にベネフィットを享受してもらうことは事実上、不可能なのです。
そしてその商品にベネフィットを持つターゲットを設定して、何を行ない、何を行なわないかという、商品展開のための戦略を策定していく必要があります。

日本のように市場が飽和した状態では他社のブランドのシェアを奪わない限り自社の成長は期待できないため、新商品の市場導入は欠かすことが出来ません。
その時自社内の商品を対象にして新商品を開発しても単なる独りよがりで、他社ブランドの顧客は新商品に興味を持ってくれません。
「今回の商品はこのような素材を使って、このような作り方をして、これまで市場にある商品とはこのように違います。そしてこれを食べることでこんないいことがありますよ」と訴求して他社ブランドの顧客のブランドスイッチを促進しなくてはなりません。

既存市場にどのような嗜好、価値観、不満点を持った消費者(ターゲット層)がいるかを考え、その人たちにどのようなベネフィットを訴えかけるかを明確にして商品を考える方がマーケティング上効率的になるではないでしょうか。
もちろん、研究開発部門で画期的な製品が開発された場合はその逆の流れになります。

ターゲット設定に当たっては、限度はありますが層の規模が小さくても心配いりません。
規模が小さいほうが、ベネフィットならびにその元になる価値は差別化され独創的で話題性のあるものになります。
以前は大手メーカーがマスメディアを使った大量宣伝で新商品訴求をしてくるため中堅、中小企業は対抗しにくい状況にありました。
しかしネット社会になって消費者の間のベネフィット共感の伝播が見られ、SNSなどで話題になるとマスメディアがそれを取り上げ、それがまた消費者間の共感をさらに高めヒット商品につながるというが顕著です。
この現象がいつか終わってしまうのか、それともさらに広まってくのかは定かではありませんが、この現象をうまく利用することが、今の時代、大手、中小にかかわらずヒット商品を生み出す重要なマーケティング施策の一つのような気がします。

新製品・新商品開発における価値とベネフィット

近年、大手企業をはじめとして今後の商品における「価値の向上」「価値の差別化」への対応が表明されてきています。
今回のブログでは「価値」について考察してみました。

「価値」とは
物がもっている,何らかの目的実現に役立つ性質や程度。値打ち。有用性。 (大辞林より引用)
哲学、経済分野では別の意味もありますが、新製品・新商品開発における「価値」の意味はこれでいいと思います。
冒頭にあげた「価値の向上」「価値の差別化」にある「価値」もこの意味で使われています。

一方、マーケティングでは「価値」に近い意味で「ベネフィット」という言葉がよくつかわれますが、価値とベネフィットの違いはご存知ですか?

「ベネフィット」の意味は
利益、ためになること [もの] (研究社 新英和中辞典)
「価値」は価値を感じる人がいて初めて意味を持ちますが、ある人にとって価値あるものでも、他の人にとってそうではない場合もあります。
「ベネフィット」はある人たち(=特定のターゲット)が何かしらかの恩恵を受ける要素のことです。

「価値」はプロダクトアウト的で「ベネフィット」はマーケットイン的と言えます。
本来は「ベネフィットの向上」「ベネフィットの差別化」とした方が適切ですが、「ベネフィット」という言葉が一般的ではないために解りやすさから「価値」という文言を使っているのでしょう。

新製品・新商品開発においては「どのような人たちにどのようなベネフィットを提供するのか」、つまりターゲットを明確にしてその人たちの心を動かし満たす要素は何かを明確にした商品コンセプトが欠かせません。

新製品・新商品開発における顧客志向の取り入れ方

企業におけるマーケティング活動の目的は「利益を上げ、社会に役立つこと」です。
モノ不足の時代にはモノづくり偏重(プロダクトアウト)で多くの商品を効率よく生産して市場に供給することで目的は達成できました。
しかし市場が飽和し、シェア争いとなっている今の時代、消費者の心を動かし、心を満たす商品で他企業商品からのブランドスイッチで利益を上げることが必要になってきます。
それを実現する手段の一つに「顧客志向(顧客第一主義、消費者志向、お客様本位・・・)があります。
「顧客志向」は利益を上げるための手段であり、目的ではありません。
企業の経営理念に「顧客志向」という文言がよく出てきますが、よくよく考えると経営理念にあるのはおかしく事業方針、行動基準にあるべきなのでしょうね。

顧客志向のマーケティング施策への問題点として、顧客の要望ばかりを取り入れて新製品・新商品開発をしていくとアイテム数が膨大になってしまいマーケティングコストが上がって利益が低下してしまうことが指摘されています。
やみくもに顧客の要望を取り込むのではなく、マーケティング戦略をきちんと構築し、それをもとに顧客の要望を取捨選択することが必要です。

では顧客志向をどのように実行していけばいいのでしょうか?
「顧客志向」マーケティングにおけるすべてのプロセスで効果があるものですが、ここでは新製品・新商品開発における「顧客志向」を考えてみましょう。

まず「顧客志向」で新製品・新商品開発を進めるにあたっては顧客を知らなくてはなりません。
だからといって消費者調査をして顧客のニーズを集めて、それを整理しただけで顧客にとって魅力的な製品を生み出すことは出来ません。
その理由は、そのようにして集めた顕在的なニーズはすでに競合他社でも把握している可能性があり、また、潜在的なニーズは顧客自身さえ意識していないため、新規性のあるニーズが語られていない可能性があります。
一つの方法として、新製品開発、新製品・新商品開発者自身が購入者の立場で店頭に行って買い物をし、なぜそれを手にしたのか、なぜそれを手にしなかったのかを考えてみることです。
特売品になぜ魅力を感じたのか、賞味期限切れ間近の値下げ商品を手にしたのか、牛乳パックの棚の奥のほうのものを手にしたその時の心理はどんなものだったか、パッケージのどこに心を動かされてその商品を手にしたのか・・・
一朝一夕には難しいですが、考えることを繰り返すことで思考スキルが向上していくことは間違いありません。
参入市場の情報は収集した、顧客のニーズも調査した、それだけでは魅力ある新商品は誕生しません。
それらの情報の意味合い考え、持っている知識と組み合わせて創造的発想をしていくことが必要です。

実際にあった事例を紹介します。
そのメーカーは過去に冷凍コロッケを製造販売しており再開の検討をするにあたって主婦を対象としたヒヤリングを行いました。
昔は肉屋さんの店頭で販売されていましたが今はコンビニ、スーパーでの揚げたてコロッケの販売が主流です。
そこで購入している理由は
1. 家で揚げ物をすると後の片付けが大変。
2. 冷凍コロッケは自分で揚げると爆発しやすい。
3. コンビニで揚げたてのコロッケが簡単に買える。
4. 子供のおやつにちょうどいい。
このような状況では冷凍コロッケの再開は難しいと考えるのが普通です。
または、コンビニ向けに低価格の冷凍コロッケにしたらと考えます。
しかし「4. 子供のおやつにちょうどいい」という意見からコンビニのコロッケは「おやつコロッケ」で夕飯のおかずにはなっていないのではないか?
その理由は「手抜きによる後ろめたさ」にあるのではないかという仮説が生まれました。
直接「コンビニコロッケは料理の手抜きで後ろめたいとおもいますか?」と聞いてみると多くの主婦から「言われてみるとそんなところがある」との答えが返ってきました。
実際に夕飯のおかずにする主婦もいましたが、料理好きの主婦ほど夕飯のおかずにはしていないということがわかりました。
「手抜きによる後ろめたさ」は主婦の回答には出てきませんでしたが当人が気が付かない潜在意識には存在していたのです。
低価格の冷凍コロッケをつくるか、夕飯のおかずになる高級冷凍コロッケを作るか、皆さんならどちらを選択しますか?
後者を選択して、どのようなコロッケなら魅力的で夕飯のおかずになるかを考えてつくりだすこと、それが独自性のある差別化されたお客様に買ってもらえる商品になるのではないでしょうか?

食品ヒット商品をつくる基本は価値の創造

これまで多くの企業の方から食品のマーケティングに関する相談を受けてきていますが、その中で一番多くあるのが新製品・新商品開発に関しての相談です。

「ヒット商品を作りたい」「ブランドを育てたい」競合他社のヒット商品に対抗する商品を作りたい」「上層部から新製品・新商品開発の指示が出た」「競合他社のヒット商品に対抗する商品を作りたい」「売り上げが伸びないので新商品を導入したい」等々動機は様々ですが根底にあるのは「売れる商品を作りたい」ということです。
「売れる商品」とは「お客様に買ってもらえる商品」です。 お客様が買いたいと思う商品とはどのような商品なのでしょうか?
それはお客様にとって魅力的な商品、すなわち価値のある商品です。 お客様はその価値に対しての対価を払ってくれることでビジネスは成り立っています。
消費者が求める価値とは必ずしも高品質、高価格ということではありません。 その商品を手にして口にすることで、何か得をした、何か満足した、何か納得したと思ってもらえる要素、それが価値(=ベネフィット)です。
・価格が安いことに価値を置く消費者、価格が高いことに価値を置く消費者
・どこでも買えることに価値を置く消費者、どこでも買えないことに価値を置く消費者
・機能性に価値を置く消費者 ・無添加に価値を置く消費者
・国産原料に価値を置く消費者
等々、挙げればきりがないほど消費者が食品に見出す価値は多様です。

このような状況で、自社の新商品にどのような価値を持たせるかをはっきりさせて、競合商品の価値を上回る価値を作り出す「価値の創造」が大切になります。
ヒット新製品・新商品開発には「価値の創造」の有無が大きく影響しますが、簡単にできるものではなく時間も労力も費やす一番大変なプロセスで多くの場合新製品開発の段階で行うのが理想です。
「価値の創造」へのアプローチは、自社の経営資源(資金力、設備力、技術力、原材料調達力、企業ブランド力、外部企業活用力)から生み出せる価値の洗い出しと消費者の意識から考えられる価値との最適な組み合わせの発見です。

最終的にどのような意識を持っている消費者(=ターゲット)に自社で可能などのような価値を提供するのかをあきらかします。
マーケティングでよく言われてきている商品コンセプトです。
しっかりした商品コンセプトが出来れば、その後のプロセスである新製品・新商品開発、情報発信、販売促進で、その商品の価値を如何に解りやすく、適切に消費者に伝えていくかを考えることはそれほど難しいことになりません。

国産ウイスキーにおけるモノとコト

今はどうかわかりませんが、日本のウイスキー全盛時代(昭和の後半:当時私はウイスキーメーカーでマーケティングに従事していました)、成人人口一人当たりのウイスキーの消費量は多分世界一だったのではないかと思います。
皆さんもよくご存じのサントリー社のオールドは最盛期は年間1,200万ケース、本数にすると1億4千4百万本も飲まれていたのですから。
日本には元々、日本酒があって、焼酎がありながらなぞそれほどまでにウイスキーが飲まれるようになったのでしょう。

その理由は、当時のウイスキーユーザーがウイスキーというモノ消費ではなくウイスキーがつくり出すコト消費をしていたからに他なりません。
日本においては昭和の初めごろからウイスキーが一般的に飲まれ始められましたが、当時は西洋文化へのあこがれが心の底にあったことは間違いありません。
そしてウイスキーを飲むことの「かっこよさ」が社会に広がっていきました。
それともう一つ、日本にそれまであった蒸留酒である焼酎の生産者を保護する目的から行政が酒税を高く設定することでウイスキーが同じ蒸留酒であるより高価になりましたが、そのことが「かっこよさ」に拍車をかけることになります。
そして戦後しばらくしてからの高度成長期にウイスキーは大きく伸びていきました。

ウイスキーを最初に口にして「これはおいしい」と思った方は何人いらっしゃるのでしょう。
少なくとも私においては、大学生の時にウイスキーを始めて口にして「おいしくない」と思いました。
しかしながら、雰囲気のかっこよさなどが理由でパブ、バー、スナックで飲む機会が多く、我慢して飲んでいるうちに「おいしい」と感じるようになってきました。
ウイスキーのような癖のあるものは慣れるにしたがっておいしさを感じるようになります。
そして下宿で飲むのは低価格の二級ウイスキー、外で飲むのは一級、ちょっと気張って特級ウイスキー。
私を含めこのようなウイスキーユーザーが日本のウイスキー市場を支えていたのです。
まさにウイスキーを媒介にしたコトの消費だったのです。

ところが1989年(平成元年)を境にウイスキー市場は急速に縮小していきました。
その原因に関して、若者がアルコール度数の強い酒を避けるようになったとか色々言われてきていますが、本当のところはウイスキーの級別の廃止です。
時の英国首相サッチャー女史が、「スコッチは日本の酒税法では特級になり税金が高くその結果価格も高くなるため売れない。一方日本のウイスキーはちょっとした製法の違いだけで品質は大きく変わらないのに一級、二級というカテゴリーがあり酒税も安く、価格も安いウイスキーがある、それは不公平だ」というクレームがあり日本政府として譲歩し、特級の減税、二級の増税による酒税の一本化を目的とした「級別廃止」したのです。

私は「業界の意見を聞きたい」と言われ国税庁で担当課長からヒヤリングされました。
その時私は「ウイスキーは消費者にとっては、それを飲むことが一種のステータス、社会的地位を表すツールの面があるので特級の減税による価格低下、入門酒としての二級の増税による価格上昇につながる級別廃止はウイスキーの市場の縮小、ひいては酒税全体の減少につながります」と意見を述べたのですが、担当課長は「ウイスキー市場で特級の販売金額シェアは圧倒的に高く、特級の価格が下がることで販売数量は伸び市場の合計金額は大きな影響を受けないと思うのですが」ということでした。

通常は「価格が下がれば商品が売れるようになる」と考えがちですが、コト消費の目的て購入される商品は「価格が下がることで商品が売れなくなる」という一つの事例です。

マーケティングツールとしてのネット活用

ターゲット、提供価値などいわゆる商品コンセプトも確定し、ネーミング、パッケージデザイン、キャッチコピーも決まっていよいよ新発売。

事前の消費者の受容性調査もやっていても所詮その段階では仮説です。
昔はその仮説を検証するため、新商品失敗のリスクを避けるために「エリアマーケティング」という手法をとっていました。
地域を限定して何か月かの一定期間試験的に販売し、その結果から商品、広告、販促策を見直して全国発売に備えるというものです。
最近では「地域の特性に応じたマーケティングを行う」ことを意味する場合もあるようですが。

しかし、インターネットが発達した今は、自社ネットショップ限定販売でが昔のエリアマーケティングに代替できます。
価値があると思った製品が本当に受け入れられるのか、どのようにその価値を伝えたらいいのか等々、短期間でしかも低コストで確認できますので、大手企業だけでなく中堅、中小食品企業でも利用価値があると思います。
特にフェースブックの場合は、きめ細かいターゲット設定が出来ますので、商品コンセプトを短期間で変更しながら仮説の検証、商品コンセプトの改善が可能になります。

最近ではこの手法で市場導入を進める企業が増えてきているようですが、まだまだ少ないのも事実ではないでしょうか。
その一番大きな理由は、大企業においてはマーケティング部門は自社ネットショップに無関心でWEB担当部門に任せきり、WEB担当部門はマーケティング部門で作成した商品コンセプト、キャッチコピーをそのまま受け入れてページ作成するという点にあります。
一方、中堅、中小企業においては人手不足から、当初に制作会社が作成したままのネットショップで運営しているという点にあります。

ネットショップは単に商品を売るためだけに存在しているのではありません。
仮説の検証だけでなく、SNSなどで話題になることで口コミ(ネットコミ)で新商品の認知が上がってきますし購入促進、顧客創造にもなります。
また、次のステップであるリアル店舗の取り扱い増加につながります。

マーケッターの皆さん、自社ネットショップをマーケティングツールとして活用されてはいかがでしょう。

 

国産ウイスキー黎明期の新製品開発

スコットランドでスコッチウイスキーづくりを学んできた竹鶴正孝氏(後にニッカウウィスキー創業)は1923年に壽屋(現サントリー)に技術者として入社し京都にある山崎蒸留所にウイスキー製造を任されることになります。

そして6年後の1929年に初の国産ウイスキーとして「サントリーウイスキー」(ラベルが白かったことから「白札」と呼ばれその後「サントリーホワイト」)が発売となります。
竹鶴正孝氏の目指したウイスキーはスコッチを手本にした本格ウイスキー。
ウイスキーに憧れ単身スコットランドに渡ってウイスキーづくりを学んだのですから、当然ウイスキーの味への慣れがありウイスキーの味わいに心酔していたはずです。
国産第一号のウイスキーに対しても100%スコッチの品質とは言えないまでも竹鶴氏にとっては満足のいく品質だったと思います。

しかし竹鶴氏の思いは消費者に通じず、売れ行きは芳しくありませんでした。
当時日本で飲まれていた酒と言えば甘みのある「日本酒」。
その味覚に慣れた消費者にとっては甘味が無く、しかも独特のスモーキーフレーバーのあるウイスキーの味わいに大きな抵抗があったことは容易に想像されるところで、「本格ウイスキー」という訴求だけでは消費者の心を動かすことが難しかったのでしょう。

竹鶴氏はウイスキーの製造から離れ、壽屋の社長である鳥井信治郎氏氏は日本人のための日本のウイスキーづくり、言い換えれば日本人にとって飲みやすいウイスキーの製造を進めることになります。

具体的にはウイスキーに甘みをつけ、スモーキーフレーバーを弱くすることでウイスキーという新しい味わいへの抵抗感を下げ「飲みやすい」ウイスキーをつくることだったのだと思います。

人間は甘みを本能的においしさと感じるとと言われていますが、わずかでも甘みが加わることで飲みやすさ(=おいしさ)を感じ、それに慣れるにしたがって癖のある味わいを求めるようになることがあります。
日本でコーヒーが広まり始めた50年ほど前、砂糖を入れて飲むことが一般的でしたが、徐々にブラックで飲むようになってきました。
ワインも当初は赤玉ポートワインに代表される甘いワインが主流で、今多く飲まれているワインは酸っぱくて苦いと敬遠されたものです。
このように甘みは、飲みやすさ、とっつきやすさを助長しますので、甘みを持たせるということはこれまでにない味わいの商品の初期導入時に効果のある品質設計になります。

誤解があるといけませんので少し詳しく説明します。

蒸留した段階のウイスキーには糖分は一切含まれていませんが、樽に貯蔵している段階で甘みを増やすことが出来ます。
例えばスペインのワインにシェリー酒がありますが、甘口シェリー酒の空き樽でウイスキーを熟成させると樽にしみこんでいたシェリーが溶け出してウイスキーが甘くなります。
どの程度シェリーがしみ込んだ樽を使うかによって甘みが違ってきます。
スコッチウイスキーにもシェリー樽熟成のものがありますが、長いスコッチウイスキーの歴史の中で消費者はこれまでの味わいに慣れがありますので甘みはほとんど感じない味わいになっています。

竹鶴氏も鳥井氏も「生活の洋風化によってウイスキーが伸びる」と思っていたことは間違いありません。
それを広めるため竹鶴氏は「スコッチウイスキーと同じ本格ウイスキー」、鳥井氏は「日本人にあった飲みやすいウイスキー」 という製品コンセプトで市場をつくってきました。
国産ウイスキーの黎明期には、こだわりで顧客を獲得するか(プロダクトアウト)、消費者の嗜好に合わせて顧客を獲得するか(マーケットイン)の違いがありました。
プロダクトアウトの製品も魅力があるし、マーケットインの製品も魅力があります。

皆さんがもし当事者だとしたらどちらを選択するでしょうか?

近年ではニッカウヰスキーでもスモーキーフレーバーの無いウイスキーの製品化を行っていますし、サントリー社の製品にも糖分は含まれていません。

今や、世界のウイスキー品評会ではニッカウヰスキー、サントリー製品とも常に上位に位置し、ウイスキーの原点であるスコッチウイスキーに勝るとも劣らない確固たる地位を築くまでになっています。
日本のウイスキーメーカーほど品質向上のための研究開発に熱心なところはありません。