月別アーカイブ: 2014年4月

「おいしさ」のつくり方、伝え方

2009年に新橋に「俺のイタリアン」を出店して、現在、イタリアンの他にフレンチ、割烹、果てはおでん、蕎麦まで都心部中心に全8業種24店舗の店があり、一部テーブル席はあるものの基本は立ち食いスタイルです。
にもかかわらず、各店とも行列が絶えません。

ビジネスコンセプトはお客様の回転数を高めて低価格で料理を提供するというもので、これまででも同じビジネスモデルとして以前から「牛丼の吉野家」などがありました。

消費者が飲食店に求める価値は大きくは以下の三つではないかと思います。
1. おいしさ
2. コストパフォーマンス
3. 食事の場の雰囲気、サービス

この三つの価値を同時に提供することは非常に難しいことです。
吉野家は1. おいしさ 2. コストパフォーマンスに、時間節約の価値を加え、3. 食事の場の雰囲気、サービスを除くことで「うまい、安い、早い」という価値提供で差別化を図り成功してきました。
今回の「俺の●●」も1. おいしさ 2. コストパフォーマンスで、どちらもコア・コンセプトは「おいしさ」です。

二社の違いにお気づきでしょうか?
「俺の●●」は「おいしさ」という言葉を使わずに高級食材をふんだんに使って、それを調理する料理人に業界の一流と称される人を集めていると言う情報を発信しています。
つまり「おいしさ」と言う言葉を使わずに、そのエビデンス(=根拠)を訴求することでお客様に「おいしさ」を伝えています。
インターネットが発達した情報社会の今、単に「おいしい」と言うだけでなく、「おいしさ」の根拠の情報の方が口コミ、ネットコミになりやすく情報が拡散します。

今回は飲食業の話ですが、食品の新製品・新商品開発においても「おいしさ」をコアコンセプトにして、どのような素材で、どのようにつくってその「おいしさ」を生み出したのかと言うエビデンスをターゲットにきちんと伝えていくことが大事なのではないかと思います。

「味覚」は電気信号、「おいしさ」は感情

安倍晋三首相とオバマ米大統領が食卓外交を行った東京・銀座のすし店「すきやばし次郎」がマスコミ、ネットで話題になっています。
「おまかせ」コースは3万円、オバマ大統領は「今日食べた寿司が人生で一番おいしい」と話したことも紹介されています。

消費者が食品に求める価値で一番大きなものは「おいしさ」ですが、非常に主観的なもので万人が認める「おいしさ」がないために食品業界に携わる皆さんにとってはいつも悩まされるのではないでしょうか。

人が食物を口にしてその味わいを感じる(=味覚)のは、味蕾と言う受容器が食物に含まれる化学成分を電気信号に変えて脳に届けるからです。
脳には様々な情報が蓄積されていて、それらの情報をベースに受け取った電気情報を判定します。
昨年問題となった食品偽称を例にとると、食品から「車エビ」という情報を視覚で取得し「車エビはおいしい」という情報が融合して、仮に「バナエイエビ」を口にしてもその食品は「おいしい」と判定してしまうのです。

つまり「おいしい」「おいしくない」という判定は、人間のそれまでの経験による記憶で行われます。
「味覚」は電気信号に過ぎず、「おいしさ」は感情なのです。

もう一つ、「おいしさ」を感じる人間の心理に「認知的不協和」と言うものがあります。
人が矛盾する認知を同時に抱えた時に感じる不快感のことで、人はその不快感をなくすために矛盾を無くそうとします。

3万円という寿司を口にした時、あまりおいしいと思わなかったとしたらそこに矛盾が生じます。
そしてその矛盾を解消しようとした時、価格は客観的事実なので主観的な「おいしさ」で解消しようとします。
「ああ、これが3万円のおいしさなんだ」と。

消費者においしいと思ってもらう食品をつくるにはこのようなお客様の心を動かす必要があります。
前提として「味わいにエビデンスがある、高品質な製品があってこそ」ということは言うまでもないことですが。

消費者の健康志向にこたえる商品を

高齢化に伴う健康志向から健康食品が注目されてきています。
一昨年の内閣府消費者委員会の調査では、約6割の消費者が利用し50代以上の約3割がほぼ毎日利用しているという結果が出ています。
健康食品の市場規模は約2兆円に達していると言われています。

日本の法律では、人間が口に入れるものは「医薬品」と「食品」に分けられており、「健康食品」はその名の通り「食品」でしかありません。
健康食品には国の制度によって審査、許可された「特定保健用食品(トクホ)」、成分の効果をうたえる「栄養機能食品」は機能性の訴求は出来ますが、その他の健康食品は一切機能性の訴求は出来ません。

農林水産省による「機能性を持つ農林水産物・食品開発プロジェクト」がスタートするなど、素材の機能性研究が本格的に始まってきていますし、本年度には政府の成長戦略の一環で、健康食品の表示規制緩和が解禁されようとしています。
このような背景から、健康食品はこれからますます市場を賑わせ、拡大していくのではないでしょうか。

今の時代、健康維持、増進は消費者にとって大きな価値です。
通常食品を提供してきている食品メーカーにおいても消費者の健康につながる商品の開発は必要になってきます。
これまでもビタミンやミネラルなど過去に「健康にいい」とされる素材を強化した商品はありますが、多くの場合売上げを上げるための手段として行われてきた面が強いと思います。
これからは、手段ではなく消費者の健康を目的とした商品を追求していくことになるのではないでしょうか。

後天的な味覚「アクワイアード テイスト」

あまり聞きなれないと思いますが、「アクワイアード テイスト」という言葉があります。
英語で書くと「Acquired_taste」です。
最初は不快感を感じても、何回か口にするにしたがって「おいしさ」を感じ、クセになる味わいとでも言うのでしょうか。

コーヒー、ビール、ウイスキー、チーズ、納豆、コーラ、からし、燻製・・・ などなど数え上げればきりがないほどです。 「苦味」「酸味」「辛み」「臭み」という成分を持った食品の味覚を「アクワイアード テイスト」と言います。

ウイスキーを最初に飲んで「おいしい」と思った人は何人いるのでしょう。
多くの人は、最初「おいしくない」と思っても、しみじみじっくりウイスキーを飲むことのかっこよさ、大人の世界へステージアップに憧れて飲み続けていくうちにその味わいが好きになり、いつの間にかウイスキー通になっていったのではないでしょうか。
「アクワイアード テイスト」を受け入れるようになるためには情報の質と摂取回数、この二つが大きく影響します。

同じ酒類で、甘みがあってフルーツの香りがするサワーがありますが、こちらは「アクワイアード テイスト」と逆でとっつきやすい味覚です。
そのため新発売時には人気がありますが、とっつきやすい分飽きやすいため、メーカー各社は手を変え品を変え新商品を市場に導入しなくてはなりません。

「アクワイアード テイスト」の商品がロングセラーになりますが、だからと言って簡単に商品化しては失敗します。
味わいにどのくらいのクセを持たせるかと言う問題と、売れるまでに長い時間がかかるという問題があります。